芝木好子 著「京の小袖」 (講談社文庫)を読みました。
日頃、異星人が攻めてきたり、遺伝子を操作されたり、惨殺死体が転がっていたりする小説を主に読んでいますが、時々正しく文学的な作品も読みたくなってしまいます。😁
そんな折、私が読ませて頂いている数人の「読書系ブロガー」の中のおひとりが、この夏に初めて読んだと書かれていたのが、この「芝木好子」。
私は名前すら存じ上げなかった作家でしたが、調べてみると1914年(大正3年)生まれで、戦時中の1942年に芥川賞を受賞しているとのこと。
1991年に亡くなられているけれども、晩年まで精力的に活動を続けられたようで作品も多数。
試しに読んでみるかと思い、Amazonを覗くと Unlimitedで読むことができる本が数冊あり、とりあえず短編集からかなということで、この「京の小袖」を読んでみました。
(11月11日現在、Kindle Unlimitedでは読めなくなっていました)
この短編集は昭和60年(1985年)に刊行されていて、8作品が収録されています。それぞれの作品は、昭和39年に発表されたものが1篇、その他は昭和40年代が4編と、昭和59・60年が3編と、かなり書かれた時期に幅はあります。
いつも読んでいる、SFやミステリーとは対極にある作品群で、昭和の時代の女性の生き方や葛藤、家族のあり方、家のしがらみなどが、美しい文章で淡々と綴られていきます。
8編のうち、昭和59・60年に書かれた、「風花」「貝母」「京の小袖」が私には刺さりました。主人公がとまどい悩み迷いながらも、決意を固めていく描写が心に沁みます。
文章も時代を感じさせる表現が所々に見られますが、かえってそれが新鮮であり、また上品な風情を感じさせてくれます。
そのような表現の部分を少し引用してみます。
====== 「籠の中」より引用
七号館をまわる時いっしょに来ればわかってよ」 「ぜひお供させていただくわ」
====== 「妹」より引用
「兄さん、今朝は顔をあたって、きれいなワイシャツを着ていらっしゃいね。
====== 「貝母」より引用
「二十歳になったそうね。四年の大学へやるのは、早苗さんもえらいものね」
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時代を感じさせるといえば、こういう表現もありました。今どき32歳で独身は珍しくもないですよね。
====== 「貝母」より引用
男も三十二歳になって独身なら、人の目に立つのだろう。
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男女雇用機会均等法が制定されたのが、この本が発行された昭和60年(1985年)であり、この小説群が書かれたのはそれ以前ということになります。
私や妻は、この法律制定の数年前に就職しているので、この小説に書かれている時代背景が実感としてある最後の世代といえるでしょう。
若い方々には古臭さや違和感があると思いますが、親の世代が若かったころの時代の空気が感じられる小説かとも思います。かえって若い方のほうが新鮮に読むことができるかもしれません。
男性よりも女性が共感できる部分が多いのだろうと思いますが、私は懐かしさも感じながら、なんとも心地良く、この美しく上品な文章を読みました。
また、著者自身による丁寧な「年譜」が巻末に添えられているのも好感です。
異星人やシリアルキラーのお相手にちょっと疲れた、そこのあなた!
お勧めします!😃