読書 「新しい免疫入門」第2版 免疫の基本的なしくみ 審良静男, 黒崎知博, 村上正晃 著

審良静男, 黒崎知博, 村上正晃 著  「新しい免疫入門」第2版 免疫の基本的なしくみ講談社 ブルーバックス

 

2014年に初版が発行され、非常に好評だった「新しい免疫入門」が10年ぶりに改訂され、第2版として 2024年の5月に刊行されました。

免疫は非常に複雑で、未知な点も多いしくみですが、現在非常に目まぐるしく研究が進んでいる分野でもあります。
そのため、かつての常識が現在では当たり前ではなくなっている、などということも多くあります。
私も、高校で生物を教えてきましたが、そのキャリアの後半では、30年以上前に大学で勉強した免疫の常識はすっかり覆され、勉強のやり直しという感じでした。
そういう中で、この「新しい免疫入門」は、やや難しい部分もありますが、非常にわかりやすく、現在の免疫学を体系的に概観できる良書でした。(高校の生物基礎程度の知識は必要だと思います)

第一著者の審良静男(あきらしずお)氏は大阪大学の特任教授で、免疫学の世界的権威です。ノーベル賞の有力候補と長年言われてきました。(残念ながら受賞はされていません)


★ 審良氏による『まえがき』が、本書の内容をよく表していると思うので、一部引用します。

======『初版まえがき』
二〇世紀のおわりから二一世紀の今日にかけて、免疫の〝常識〟は大きく変わった。
 たとえば、自然免疫による病原体認識という段階がなければ獲得免疫は始動しないことがわかり、従来の、自然免疫=下等なシステム、獲得免疫=高等なシステム、という図式が崩れ去った。自然免疫と獲得免疫は、どちらが上、下という関係でなく、相互に補完してわたしたちのからだを病原体から守っていたのだ。

======『第2版まえがき』
 免疫応答の流れをきわめてオーソドックスに解説する本が少なかったためか、本書を読んではじめて基本的な流れが理解できたという声を多くいただいた。また、免疫を学ぶときに最初に読むべき本として、医学系の分野で高い評価をいただいたことも、望外の喜びであった。
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「免疫」は非常に複雑な反応なので、まずは「大まかな流れ」をつかんでおくことが、全体の理解への早道だと思われます。
『第2版まえがき』にあるように、免疫を学ぶときに最初に読むべき一冊だと言えるでしょう。


★ 私がこの本を読んで欲しいと思うのは、

①「生物」を選択して学習している、現役の高校生、または浪人生
②理学部や医学部、農学部等「生物系」の学部・学科に入学した大学生(特に高校で「生物」を選択していなかった人)
③高校で「生物」を教えている先生方(特にベテランの先生)
④「免疫」に興味をもつすべての人々

①の高校生には、やや難しいかもしれませんが、「通読してから免疫の分野を学習する」または「学習後に本書を読む」ことで、理解が深まったり気が付く点が多々あると思います。

②の大学生には、縦書きのブルーバックスなどとバカにせずに、読んでおくことをお勧めします。細かいことは各論や研究レベルでやればよいわけで、その前に全体を大きくつかんでおくことが重要だと思います。

③の現役の先生方に対して失礼かもしれませんが、「免疫」の分野は教科書が改訂されるたびに未知の内容が入ってきて大幅に書き換えられます。最新の研究を体系的に身につけておくことは非常に重要だと思います。
この20年ほどで、免疫の常識は大きく変わっています。ご自身が大学生だった頃とは全くと言っていいほど別の内容だと思って本書などを読まれると良いと思います。

④のすべての人々について、『初版まえがき』から引用します。

======『初版まえがき』
病気の半数以上に免疫システムが関係している可能性がある以上、免疫の知識はいまやだれもがもつべきリテラシーである。そのためにも本書が役立つことを願う。
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専門書ではない、縦書きのブルーバックスですが、内容は非常に充実しています。そのため、決して簡単で読みやすい本ではないと思いますが、難しすぎて理解できないという内容ではありません。

「数学や物理」の「難しい」内容の場合、数式や計算がさっぱりチンプンカンプンで、全く読み進められないという場合もありますが、「生物」の「難しい」は、それとは違って非常に「複雑」で「用語が分かりづらい」という難しさでしょう。
じっくり読んでいけば理解できないということではないと思います。
(本書に、用語集のようなページがあると親切だとは思いましたが・・・)

 

目次を載せておきます。
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第1章 自然免疫の初期対応
第2章 獲得免疫の始動
第3章 B細胞による抗体産生
第4章 キラーT細胞による感染細胞の破壊
第5章 複数の免疫ストーリー
第6章 遺伝子再構成と自己反応性細胞の除去
第7章 免疫反応の制御
第8章 免疫記憶
第9章 腸管免疫
第10章 自然炎症
第11章 がんと自己免疫疾患
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第11章に「がん」の話も出てきます。
過去記事⬇️ にも書きましたが、私はノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑博士の「免疫チェックポイント阻害薬」(オプジーボのおかげで、現在まあまあ普通に生活できています。

savatrunk.com

 

がん細胞はある分子を使って、キラーT細胞(がん細胞や感染細胞を破壊する免疫細胞の一種)のはたらきを抑制しながら増殖しているわけですが、「免疫チェックポイント阻害薬」はこのはたらきを阻害し、キラーT細胞ががん細胞を攻撃することができるようにします。
私の場合、この「キラーT細胞」が非常に良く働いてくれたおかげで、現在がん細胞は全く見つからない状態にまでなっています。

現代は、二人に一人が「がん」にかかるとも言われています。
筆者が言うように、「がん」だけではなく『病気の半数以上に免疫システムが関係している可能性がある以上、免疫の知識はいまやだれもがもつべきリテラシーである』という時代なのではないでしょうか。

ちょっと難しいかもしれませんが・・・
お勧めします! 😄